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東京地方裁判所 平成3年(ワ)10542号 判決

原告

有限会社生化学研究所

右代表者代表取締役

井上信幸

右訴訟代理人弁護士

富坂博

右輔佐人弁理士

松本弘

被告

株式会社ゼノア

(旧商号 株式会社柿の葉会)

右代表者代表取締役

中村教雄

右訴訟代理人弁護士

小林正彦

右輔佐人弁理士

井沢洵

主文

1  被告は、別紙標章第三ないし標章第七目録記載の各標章を柿の葉の茶(その粉末状のものを含む。以下同じ。)及びその容器、包装、宣伝用カタログ、広告に使用し、又は別紙標章第三ないし標章第七目録記載の各標章を付した柿の葉の茶を販売し、販売のために展示してはならない。

2  被告は、その所持にかかる別紙標章第三ないし標章第七目録記載の各標章を付した第1項記載の柿の葉の茶の容器、包装、宣伝用カタログを廃棄せよ。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文第1項及び第2項同旨。

2  被告は、原告に対し、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を同目録記載の要領で同目録記載の新聞・雑誌に各一回ずつ掲載せよ。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  主文第1項及び第2項について、仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二  請求原因

一  商標権に基づく請求

1  原告は、柿の葉の茶(以下、柿の葉を製してなる茶の普通名称として「柿の葉の茶」又は「柿の葉茶」を用いる。)の製造、販売を目的とする会社であるが、次の商標権(以下、あわせて「原告商標権」といい、その登録商標をあわせて「本件登録商標」と、(一)の登録商標を「本件第一商標」と、(二)の登録商標を「本件第二商標」という。)を有している。

(一) 登録番号 第一三一八四〇一号

出願日 昭和四八年九月三日

登録日 昭和五三年一月一〇日

存続期間の更新登録日 昭和六三年三月二五日

商品の区分及び指定商品 第二九類柿の葉茶(ただし、平成三年政令第二九九号、平成三年通商産業省令第七〇号による改正前の商標法施行令、商標法施行規則の各別表によるもの)

商標の構成 別紙第一目録記載のとおり

(二) 登録番号 第一三一八四〇二号

出願日 昭和四八年九月三日

登録日 昭和五三年一月一〇日

存続期間の更新登録日 昭和六三年三月二五日

商品の区分及び指定商品 第二九類柿の葉茶(ただし、前記(一)記載の改正前の法令の別表によるもの)

商標の構成 別紙第二目録記載のとおり

2  被告は、商業広告の制作、美容に関する教育、化粧品の製造技術の開発、化粧品の販売等を目的とする会社であるが、柿の葉の茶の容器、包装、宣伝用カタログ、広告に別紙標章第三ないし標章第七目録記載の各標章(以下、これらを総称して「被告標章」ということがある。)を使用し、また、これを付した柿の葉の茶(以下、「被告商品」という。)を販売し、販売のために展示している。

3(一)  被告標章は、以下のとおり本件登録商標と類似している。

本件登録商標は、別紙第一及び第二目録記載のとおり、「柿茶」又は「KAKICHA」の文字と柿の葉を模した図形からなるものであるところ、本件登録商標中、顕著に現された「柿茶」又は「KAKICHA」の文字は親しみやすく、理解しやすく、かつ商取引上においても「カキチャ」の称呼をもって取引きされているものであって、「柿茶」又は「KAKICHA」の文字が自他商品識別機能を有するいわゆる要部である。

他方、被告標章は「京の柿茶」又は「KYO NO KAKICHA」若しくは「きょうのかきちゃ」の文字からなるものであるところ、「京の」及び「KYONO」並びに「きょうの」の部分は商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示するにすぎないから、被告標章の要部は、いずれも「柿茶」又は「KAKICHA」若しくは「かきちゃ」の部分にある。

被告標章の要部は本件登録商標の要部と称呼において同一であり、被告標章は、いずれも本件登録商標に類似する。

(二)  被告は、「柿茶」という名称は、単に商品の原材料ないし品質を示すものであり、普通名称であると主張しているが、右名称はそもそも原告の先代代表取締役である井上信夫が昭和二六年当時商品として世上に存在しなかった柿の葉の茶に標章として付し、長年にわたって継続して使用してきたものであり、「柿の葉茶」「柿の葉を製した茶」「柿の葉を製してなる固形茶」「柿葉茶」の短縮形でもなければ、普通名称でもなく、仮に短縮形であるとしても、短縮形だからといって普通名称であると即断できるものではない。

「柿茶」は特定の種類の商品たる柿の葉の茶の名称として一般に使用される名称ではなく、一般社会でも取引界でも、長年にわたって、原告の製造販売する柿の葉の茶の標章として認識されてきたものであって、普通名称ではないから、被告の主張は失当である。

現に原告は、自らの登録商標である「柿茶」の商標が、柿の葉の茶の普通名称と認識されることのないように、一般刊行物、書物、パンフレット等「柿茶」の名称を使用している者の存在が判明したときは、直ちにその者に対して使用中止の警告を発してその使用を止めさせてきたものであり、現在、柿の葉の茶の商品に「柿茶」の標章を付して使用しているのは被告のみである。この点からしても「柿茶」は普通名称ではないことは明らかである。

なお国内において刊行されている国語辞書には、「柿茶」なる名称は全く掲載されていない。

そして本件登録商標は、いずれも登録されるに当たり、商標法三条二項の適用を受けている。右条文は当該商標が普通名称である場合には適用がないから、特許庁の審査官も「柿茶」は、普通名称ではないと認めているものである。

(三)  被告は、本件登録商標はあくまでも文字と図形等全体としての効力を論ずるべきであるとも主張しているが、たとえ商標法三条二項によって登録された商標であっても、登録された以上は通常の登録商標と同様に、その一部だけによって簡略に称呼、観念されうるものである。そして、本件登録商標中図形の部分は特に特定の称呼を生じ難いものであるのに対し、「柿茶」なる文字部分は極めて親しみやすく理解しやすい文字であって、取引者、需要者は、本件登録商標中の右文字をとらえて「カキチャ」の称呼をもって現に取り引きしているものであるから、右の「柿茶」の部分が本件登録商標の要部と認識されることについて何ら問題はない。

よって、被告の被告標章の使用行為は、原告の有する原告商標権を侵害するものである。

4  本件登録商標及び原告の「柿茶」の標章は、原告が高度の技術に基づいて製造して販売する高品質の柿の葉の茶に付して使用しているものであり、原告は、被告の前記被告標章使用行為の結果、被告の販売する柿の葉の茶を原告の製造した商品と誤認混同して購入した消費者から苦情を受けるなど、その業務上の信用を著しく害された。

原告がこうむった右信用毀損を回復するためには、少なくとも別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を同目録記載の要領で掲載することが必要である。

5  よって、原告は、被告に対し、商標法三六条一項、二項、三九条、特許法一〇六条に基づいて、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  不正競争防止法二条一項一号該当を理由とする請求

1  原告商品表示とその周知性

(一) 元原告の代表取締役であった井上信夫は、「西式健康法」の創始者である西勝造の指導のもと柿の葉の茶の研究開発を開始し、昭和二六年六月頃から「生化学研究所」の屋号で、柿の葉の茶に「柿茶」の標章を付して製造、販売してきた。井上は、右の個人事業を継承するため、昭和三三年有限会社として原告を設立し、原告は右事業とともに右「柿茶」の標章の使用も継承した。

このように井上は、昭和二六年当時商品として全く社会に存在しなかった柿の葉の茶に「柿茶」の標章を付して製造、販売を開始してその普及を図り、「柿茶」の標章を柿の葉の茶の名称として長年にわたり継続して使用してきたものであり、これにより、「柿茶」の標章は、原告の製造、販売する柿の葉の茶を示す表示となり、遅くとも昭和三六年六月頃までにはその周知性を確立した。

(二)(1)この間の原告の宣伝広告活動は、原告が柿の葉の茶の商品を「柿茶」として社会に送り出すと同時に、西勝造創刊の月刊雑誌「西医学」に宣伝広告を掲載して大衆宣伝活動をし、東京都所在の西会本部や全国の西会支部、薬局などを通じて全国的に「柿茶」の販売、普及を図った。

(2) また、昭和四三年に、株式会社主婦の友社発行の月刊誌「主婦の友」七月号の記事で、取材先の人物が原告の「柿茶」を愛用していたことから、原告は主婦の友社通信販売部から引き合いを受け、これを機に原告は、同社と提携し、同社の通信販売を通じて原告の商品の全国的な販売を開始し、右の月刊誌「主婦の友」の昭和四三年八月号から毎月、その通信販売の広告欄に原告の「柿茶」が広告宣伝されるなどし、原告は、主婦の友社通信販売部を通じて全国的規模で原告の商品である「柿茶」の販売を行ってきた。

(3) このため、昭和三六年六月頃には確立されていた原告商品表示の周知性は、右の通信販売活動により、その購買者層がより全国的に、より多方面の大衆に広がり、原告の使用する「柿茶」の標章は、原告の商品表示として、より一層全国的に取引者及び需要者間に広く認識されるに至っている。

(4) 被告は、「柿茶」の標章は普通名称であり、自他商品識別能力がないと主張するが、それが根拠がないことは、一3(二)において主張したとおりである。

2  被告標章の使用と類似性

(一) 被告は、昭和四〇年九月二日、株式会社アルパアグルッペの商号で設立され、その後昭和四七年九月一四日旧商号の株式会社柿の葉会に変更し、更に平成四年七月八日現商号に変更するに至ったもので、「商業広告の制作及び代理業、美容に関する教育及び化粧品の製造技術の開発、化粧品及びそれに関連する商品の販売」を目的とする会社であるが、前記のとおり柿の葉の茶の容器、包装、宣伝用カタログ、広告に被告標章を使用し、また、これを付した柿の葉の茶を販売し、販売のために展示している。

(二) 被告標章は、前記一3のとおり、いずれも原告の周知商品表示である「柿茶」に類似する。

3  したがって、被告の右販売行為は、被告の販売する柿の葉の茶が原告又は原告から製造販売許諾を受けている者の商品であり、あるいは被告が原告の製造販売許諾を受けている者の一員であるかのような誤認混同を需要者等に与え、原告の営業上の利益を害するおそれがある。

4  請求原因一4のとおり、別紙謝罪広告目録記載の謝罪広告を同目録記載の要領で掲載する必要がある。

5  よって、原告は、被告に対し、現行不正競争防止法二条一項一号、三条、七条に基づいて、請求の趣旨記載の判決を求める。

三  不正競争防止法二条一項一〇号該当を理由とする請求

1  被告標章は、別紙標章第三ないし標章第七目録記載のとおり、「京の柿茶」又は「KYO NO KAKICHA」若しくは「きょうのかきちゃ」の文字からなるものであるところ、被告商品は京都で製造、加工されたものではなく、京都で産出された材料を含んでもいない。

2  右の「京の」及び「KYO NO」並びに「きょうの」の部分は商品の製造ないし加工せられた地を表示するもの、あるいは原料が京都で産出されたものであることを表示するものである。しかるところ、被告商品は、原料産出地の面からも、製造加工地の面からも京都とは全く無関係であるから、虚偽の原産地を表示するものである。更に右は「京都」が茶の生産地として有名な土地(宇治地方等)をイメージ的に連想させる要素となって、あたかも被告の商品が京都地方で産出された原料を使用し、または京都地方で製造もしくは加工された商品であって、品質的に高級ないし一流であるかのごとく誇示して、一般取引者ないし需要者をして被告の商品の品質について誤認を生じさせるものである。

右は、現行不正競争防止法二条一項一〇号にいう、商品にその原産地及び品質について誤認させるような表示をするなどの行為に当たる。

3  被告の右原産地誤認表示及び品質誤認表示行為により、原告は、その営業上の利益を害されるおそれがある。

4  よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づいて、請求の趣旨第1項記載の判決を求める。

第三  請求原因に対する認否及び被告の主張、抗弁

一  請求原因一の1、2は認める。

二  請求原因一3は、争う。

1  「柿茶」は、単に商品の原材料ないし品質を示すものであり、かつ普通名称であって自他商品識別力を持たないから、本件登録商標の要部ではない。すなわち「柿茶」も「KAKICHA」も柿の葉を干して作る茶一般を示す言葉である。

「柿の葉茶」「柿の葉を製した茶」「柿の葉を製してなる固形茶」「柿葉茶」が同義語であることには、疑問の余地がない。そして「柿茶」は、これらの言葉の短縮形で同義の言葉であるから、普通名称である。

実際商標公報上、柿茶が指定商品「茶」の範疇として示されている例さえ存在するほか、一般の書籍、パンフレット等にも「柿茶」をもって普通名称として使用している事例が種々存在している。

2  本件登録商標は、一見して明らかなように、その構成は、「柿の葉の透かし絵(図柄)」を中心に、その下位に「柿茶」「アスコルビン素」及び「ビタミンC」(又は、「KAKI-CHA」「ascorbin-so」及び「vitaminC」)の各文字を配してなるものである。

そして右のように、「柿茶」「アスコルビン素」と「ビタミンC」は単に原材料ないし品質を表示するものであり、かつ普通名称にすぎないので、本件登録商標の要部たり得ない。本件登録商標は、図形を含めた構成要素全部が一体となって結合して、初めて、他の商標を排除する法律的な力を持つものである。換言すれば、この種登録商標は、これ全体をそっくりそのまま引き写すような商標使用のみが、法律上排除の対象となるのである。

また本件登録商標は、商標法三条二項の要件を充足するものとして登録されているが、言うまでもなく出願にかかる具体的な形態における標章が使用によって自他商品識別力を取得したものとされたものであり、図形や色彩を捨象した抽象的な文字標章「柿茶」が自他商品識別力を取得したとされたものではない。

したがって、商標を構成する要素の一である文字標章「柿茶」が、それ自体として独立して商標法上の排除効を持つことはない。そして本件登録商標の構成部分のうちの「柿茶」という文字標章が、右登録の後今日までの間に、本件登録商標と同様の自他商品識別力を獲得したという事実はない。

「柿茶」という言葉は、その言葉としての構造それ自体が普通名詞である。したがって当然に商標法上の普通名称に該当するから、それ自体の本来的な性格として、自他商品識別力を獲得する可能性が極めて低いものである。

三  請求原因一4は否認し、同5は、争う。

四  請求原因二1(一)は、原告が肩書地に本店を置き、柿の葉の茶の製造・販売を行っている会社であることは認め、その余は知らない。

請求原因二1(二)の、(1)、(2)は知らない。同(3)は否認する。同(4)は争う。

五  請求原因二2の、(一)は認め、(二)は争う。

なお、前記二に述べたとおり、「柿茶」という言葉は普通名称であり、また自他商品識別能力がない。

六  請求原因二3ないし5は、争う。

七  請求原因三1は認める。

八  請求原因三2、3は否認し、同4は争う。

1  被告が「京の」という表示に託したものは、あえていえば「京風の」又は「あの京のような」といった程度のものである。「日本古来の伝統を踏まえた」というニュアンスもある。すなわち日本人が古来長きにわたって愛好してきた柿を原材料とする商品について、古都であり、我が国の伝統文化を地域的に代表するとともに、日本人の柿を愛する営みを貴族社会の中で発祥させた地の一つである「京」のイメージをかりて、被告がこの商品に込めた古雅(みやび)ないし優雅さ(エレガンス)のイメージを需要者に伝えようとしたものである。特殊書体で表示しているのも、この趣旨に出たものである。

現実にも少なくとも需要者の一般的意識において、「京風ラーメン」、「江戸前寿司」、「札幌ラーメン」等と同様に、「京都を原産地とする」とか、「京都で製造ないし加工された」ということを表示する趣旨には理解されないものである。

2  ひるがえって京都は、緑茶の名産地ではあっても、柿の葉の茶の名産地ではないし、そもそも柿の葉の茶の名産地なるものは、少なくとも我が国内には存在しない。ゆえに柿の葉の茶にその原産地を表示することには、少なくとも商品としての販売上各別の意味も実益もなく、そのことによっていかなる事柄をも「誇示」したことにはならない。不正競争防止法二条一項一〇号の要件を充足するためには、表示の対象である地域に周知性、著名性のあることが必要であり、また表示の内容についても、需要者に訴える効果のあるものであることが必要であるのに対し、「柿茶」について京都と関係のあることはそのような周知性、著名性ないし需要者に訴える効果が認められないものであるから、被告が「京の」という表示を用いることによって、原告に営業上の損害が生ずるおそれはない。

九  先使用の抗弁(不正競争防止法二条一項一号該当を理由とする請求に対するもの)

仮に「柿茶」が原告の商品表示として周知性を獲得しているとしても、被告は、右周知性が獲得されたより以前である昭和四五年ころから、「柿茶」を商品として売るようになり、不正競争の目的でなく、柿の葉の茶の商標として「柿茶」の文字を使い始め、昭和四七年には、「京の柿茶」という文字標章を含む商標を付して、本格的な柿の葉の茶の販売を開始して今日に至っている。

一〇  権利濫用の抗弁

原告は、柿の葉の茶の販売に用いている商品パッケージ、栞などには「柿茶は生化学研究所の登録商標です」などといった、「柿茶」という文字標章のみからなる商標が登録商標であるかのごとき真実に反する表示をしており、本訴においても右主張を一貫して維持している。原告は本件訴訟の前後を通じて、「柿茶」という文字標章を要素とする商標について、故意又は重大な過失によって、「柿茶」業界と「柿茶」の需要者に実害を与える違法行為を行っているのであり、このような原告が、同じ「柿茶」にかかわる標章について、余人の違法行為の差止めを訴求するのは、信義誠実の原則、権利濫用禁止の法理ないしクリーン・ハンドの法理によって許されないというべきである。

第四  抗弁に対する認否

第三、九、一〇の、被告の抗弁はすべて否認する。

第五  証拠関係

証拠の関係は、記録中の証拠に関する目録記載のとおりである。

理由

第一  商標権に基づく請求について

一  請求原因一1、2は、当事者間に争いがない。

二  請求原因一3(本件登録商標と被告標章の類否)について判断する。

1 本件第一商標の構成は、別紙第一目録記載のとおり、上部約三分の二の部分を、葉柄を左下に、葉先を右上にした一枚の柿の葉の大きな図柄が占め、その下三分の一弱の部分を横長長方形の薄めの黒地とした中の上部約五分の四にわたる大きさで、「柿茶」の横書き文字を黒抜きに描き、その下部に約五分の一程度の大きさで、「アスコルビン素 ビタミンC」の横書き文字を白抜きに描いたものであり、本件第二商標の構成は、別紙第二目録記載のとおり、右同様の柿の葉の大きな図柄の下方に、同様の配置、形状、大きさの薄めの黒地の中の中央やや下部に大きく「KAKI-CHA」の横書き文字を黒抜きに描き、その上部に小さく「ascorbin-so vitaminC」の横書き文字を白抜きで描いたものである。

2 原告は、本件登録商標の要部は、別紙第一目録記載の商標については「柿茶」の文字部分であり、別紙第二目録記載の商標については「KAKI-CHA」の文字部分である旨主張する。

(一)  「茶」の語は、本来「樹木の一種である茶の木。茶の木の葉に、蒸す、焙る等の加工をして作った飲物の原料となるもの。上記の原料に湯を注いで成分を浸出させた飲物。」等の意味を有する語であるが、他方、麦茶、昆布茶、玄米茶、朝鮮人蔘茶、クコ茶、ハブ茶等の用法に見られるように、本来の意味から転じて、茶の木以外の植物の葉、実等に加工して作った飲物の原料となるもの、又は、その原料に湯を注ぐ、煮出す等して成分を浸出させた飲物との意味をも有すること、また、「柿」の語は、「樹木の一種である柿の木。柿の木の果実。」等の意味を有すること、以上のような語の意味、用法は、極めてありふれており、一般社会に広く認識されていることは当裁判所に顕著である。

したがって、「柿茶」の語に接した一般人は、それまでその語を知らなくても、前記のような「茶」の意味と用例から、柿の木の葉、実等に加工して作った飲物の原料、又は、その原料に湯を注ぐ、煮出す等して成分を浸出させた飲物を想起するものと認められる。

(二) いずれも成立に争いのない甲第二一号証、甲第二四号証、乙第五三号証ないし乙第五五号証、乙第六七号証、乙第六八号証の1ないし4、乙第八八号証の1ないし3、乙第九〇号証、いずれも弁論の全趣旨により成立を認める乙第五八号証、乙第七六号証、乙第八七号証の1、乙第八九号証、右乙第八七号証の1により被告社員が昭和四九年一二月一六日NHK総合テレビの番組「話題の窓 見直されるビタミンC」の画面を撮影した写真と認められる乙第八七号証の2の一ないし九によれば、昭和二五年一月に初版が、昭和二九年一〇月に増補第五版が西勝造選集頒布会から発行された西勝造著「西医学健康原理実践宝典」(甲第二一号証)、昭和四三年七月一日主婦の友社発行の雑誌「主婦の友」七月号(甲第二四号証)(なお原告は、ここでは原告商品に関して「柿茶」の言葉が使用されていると主張し、原告商品の写真が載せられているが、右記事の内容を全体的に読めば、「柿茶」という言葉は、柿の葉の茶全体を指すものとして使用されていることは明らかである。)、昭和五二年三月二八日株式会社六興出版発行の書籍、岩淵亮順著「柿の薬効」(乙第五四号証)、昭和五九年六月二〇日株式会社東洋医学舎発行の「健康食品事典八四年版」(乙第五五号証)、羽茂農業協同組合が、柿若葉茶の名称で販売している柿の葉の茶の製品内に同封された説明書(乙第五八号証)、主婦と生活社発行の「新・健康食百科」(乙第六七号証)、昭和六一年二月二五日社団法人農山漁村文化協会発行の傍島善次編著の書籍「健康食 柿」中の、渡辺正著の「柿の葉は成人病の特効薬」の章(乙第六八号証)、昭和三七年八月一〇日東京美容科学研究所発行の被告の創業者であり、被告の取締役小澤王春の父親である小澤王晃著の書籍「柿の葉っぱ」(乙第五三号証)、昭和四九年一二月一六日にNHK総合テレビで放映された、佐賀大学農学部助教授村田晃らを出演者とする、番組「話題の窓―見直されるビタミンC」、昭和五二年五月二五日共立出版株式会社発行のL・ポーリング著、村田晃訳の書籍「ビタミンCとかぜ、インフルエンザ」の訳者あとがき(乙第八八号証の1ないし3)、昭和五二年一一月六日発行の新聞「日刊ゲンダイ」掲載の「医者も薬もいらない家庭でできる食事健康法」の記事(乙第八九号証)、昭和五三年発行の中村学園研究紀要第一一号掲載の楠喜久枝外二名著「柿の葉の研究(第1報)」と題する研究論文(乙第九〇号証)において、それぞれ柿の葉の茶を指す語として「柿茶」が使用されていることが認められる。

(三)  右(一)、(二)認定の事実によれば、本件第一商標中の「柿茶」の文字は、各文字の有する意味、用例から、柿の木の葉、実等に加工して作った飲物の原料、又は、その原料に湯を注ぐ、煮出す等して成分を浸出させた飲物の普通名称、あるいは少なくとも、そのような商品の原料、種類を説明的に記述したものと認められ、この文字部分からは本件第一商標の自他識別力は生じないものであって、この文字部分を本件第一商標の要部ということはできない。

本件第二商標中の「KAKI-CHA」の文字の内、ローマ字で「CHA」と表記される語としては「茶」が想起されるが、「KAKI」と表記される語としては、「柿」の外、「(貝の)カキ」、「垣」、「花卉」、「夏季」、「掻き」等の語が考えられる。しかし、「KAKI」の語が「茶」のローマ字表記である「CHA」の文字と結合されて使用されていること、本件第二商標は、「KAKI-CHA」の文字が、「vitaminC」の文字、少なくとも樹木の葉であることが一般人に明白である柿の葉の図柄等と結合されたものであることによれば、本件第二商標中の「KAKI-CHA」の文字が「柿茶」のローマ字表記であることは多くの一般社会人にとって明白であるものと推認することができる。したがって、本件第一商標中の「柿茶」の文字についての前記判断と同様の理由により、本件第二商標中の「KAKI-CHA」の文字部分からは本件第二商標の自他識別力は生じないものであり、この文字部分を本件第二商標の要部ということはできない。

(四) 原告は、「柿茶」という名称は、そもそも原告の先代代表取締役である井上信夫が昭和二六年当時商品として世上に存在しなかった柿の葉の茶に標章として付し、長年にわたって継続して使用してきたものであり、特定の種類の商品たる柿の葉の茶の名称として一般に使用される名称ではなく、一般社会でも取引界でも、長年にわたって、原告の製造販売する柿の葉の茶の標章として認識されてきたものであって、普通名称ではない旨主張する。

しかし、「柿茶」を普通名称として使用している例が少なくないことは前記(二)のとおりであり、原告による継続使用により「柿茶」の文字が、その文字から一般人が本来読み取ることのできる普通名称的意味あるいは商品の原料、種類を説明的に記述したものとの意味を超えて、原告の商品の出所を表示する自他識別力を有するに至ったものとは認められない。一般に、本来自他識別力を有する商標が、強力な宣伝の結果あるいは同種商品が他にない結果、取引界ではその商標が特定の業者の商標であることが知られているのに、一般需要者の中にはその商標をその商品の普通名称であるかのように誤解する者の生ずる場合があるが、本件はそのような場合ではなく、「柿茶」の文字部分が本来自他識別力を有していないもので、前記の場合と同様に考えることはできない。本件登録商標は、いずれも商標法三条二項を適用して登録されたものであるが、本件登録商標は「柿茶」又は「KAKI-CHA」の文字のみからなるものではなく、別紙第一目録又は別紙第二目録のとおりの構成のものであり、そのような構成のものとして使用された結果自他識別力を生ずるに至ったものと判断されたものであって、本件登録商標中の「柿茶」又は「KAKI-CHA」の文字部分の自他識別力の有無についての前記(三)の判断を左右するものではなく、また、国内において刊行されている国語辞書に「柿茶」の語が全く掲載されていないとしても、そのことをもって前記(三)の判断が左右されるものではない。

更に原告は、商標法三条二項によって登録された商標であっても、登録された以上は通常の登録商標と同様に、その一部だけによって簡略に称呼、観念されうるもので、取引者、需要者は、本件登録商標中の右文字をとらえて「カキチャ」の称呼をもって現に取り引きしているものであるから、右の「柿茶」の部分が本件登録商標の要部と認識されることについて何ら問題はない旨主張する。

本件登録商標に接する取引者、需要者が、「柿茶」あるいは「KAKI-CHA」の文字に着目し、「カキチャ」と読み、柿の木の葉、実等に加工して作った飲物の原料又はその原料に湯を注ぐ、煮出す等して成分を浸出させた飲物を観念したとしても、それは本件登録商標が付された原告の商品としての柿の葉の茶を他の業者の商品と識別するものとして称呼し、観念しているものとは認められないから、本件登録商標中の「柿茶」あるいは「KAKI-CHA」の文字部分を本件登録商標の要部ということはできない。

3(一) 本件登録商標の構成中、「柿茶」、「KAKI-CHA」の部分については、前記2で認定判断したとおり、自他商品を識別する能力がなく、本件登録商標の要部であると認めることはできないので、本件第一商標については、「柿茶」の文字のほか、柿の葉の透かし絵の図柄、「アスコルビン素 ビタミンC」の文字等からなる別紙第一目録記載の全体の構成が一体となって、初めて自他商品を識別する力を有するに至っているものであり、本件第二商標については、「KAKI-CHA」の文字のほか、柿の葉の透かし絵の図柄、「ascorbin-so vitaminC」の文字等からなる別紙第二目録記載の全体の構成が一体となって、初めて自他商品を識別する力を有するに至っているものと認められる。

(二) これに対し、被告標章の構成は、別紙標章第三ないし標章第七目録記載のとおりであり、いずれも、「京の柿茶」の文字を一行(別紙標章第四目録、標章第五目録の(1))もしくは二行(別紙標章第三目録、標章第五目録の(2))で縦書きに表示したもの(ただし、別紙標章第四目録(2)の標章については、ひらがなで「きょうのかきちゃ」と読み仮名がふってある。)、一行で横書きに表示したもの(別紙標章第六目録)、「KYO NO KAKICHA」の文字を一行で横書きに表示したもの(別紙標章第七目録)である。

これらの「柿茶」及び「KAKICHA」の文字部分に自他商品を識別する力が認められないことは右2に認定したとおりであるから、「柿茶」あるいは「KAKICHA」の文字部分を被告標章の要部と認めることはできない。

(三) 右(一)、(二)に認定した事実によれば、本件登録商標の要部と被告標章の要部が同一である旨の原告の主張は、その主張する部分が要部とは認められないから、失当である。

そこで、本件第一商標全体と被告標章を対比すると、本件第一商標と別紙標章第三ないし標章第六目録の標章とは、「柿茶」の文字部分の称呼、観念が同一であり、外観も実質的に同一であり、本件第一商標と別紙標章第七目録の標章とは、「柿茶」の文字部分と「KAKICHA」の文字部分とが称呼、観念を同一にするのみで、他に共通あるいは類似する部分がないと認められる。

また、本件第二商標全体と被告標章とを対比すると、本件第二商標と別紙標章第七目録の「KAKI-CHA」の文字部分と「KAKICHA」の文字部分は称呼、観念が同一で、外観も実質的に同一であり、本件第二商標と別紙標章第三ないし標章第六目録の標章とは、「KAKI-CHA」の文字部分と「柿茶」の文字部分とが称呼、観念を同一にするのみで、他に共通あるいは類似する部分がないと認められる。

そして本件登録商標と被告標章中の「柿茶」、「KAKI-CHA」又は「KAKICHA」の部分は、前記2に認定判断したとおり自他識別力が認められない部分であるから、右の部分を共通にするだけで、他に共通、類似する部分のない本件登録商標と被告標章が類似するものということはできない。

4  したがって、商標権に基づく原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

第二  不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当することに基づく原告の請求について

一  原告は、「柿茶」という標章が、原告の製造する柿の葉の茶の商品表示として、遅くとも昭和三六年六月ころまでには周知性を確立したと主張するので、この点について検討する。

1  前記甲第二一号証、甲第二四号証、成立に争いのない甲第一〇号証の1ないし3、甲第一一号証及び甲第一二号証の各1、2、甲第二三号証、甲第二五号証ないし甲第二七号証、甲第六六号証の2、3、原本の存在及びその成立に争いのない甲第二八号証ないし甲第五八号証、乙第六五号証の2の一ないし一三、乙第六五号証の3の一ないし六、弁論の全趣旨により成立を認める甲第六六号証の1並びに弁論の全趣旨によれば、

(一) 原告は、西式健康法を提唱した西勝造が着目した柿の葉の茶を製品化するため井上信夫が昭和二六年に創業した個人営業の生化学研究所を法人化して昭和三三年六月に設立された会社であり、右の創業時から柿の葉の茶の商品名として「柿茶」を種々の態様で使用してきたものであること、

(二) 昭和二六年当時においては健康食品に関心を持つ者は少なく、また柿の葉の茶が、健康食品として、マスコミや一般の業者に関心を持たれたこともなかったため、その頃柿の葉の茶を製造販売していた業者は生化学研究所以外には見当たらなかったこと、したがって、原告が昭和二六年に柿の葉の茶に「柿茶」の名称を使用したのが、「柿茶」という名称が商品に使用された初めてのことであったこと、当時は西式健康法に関する雑誌に広告し、西式健康法の推奨する薬品、健康食品を扱う各地の西会支部や薬局で「柿茶」の表示を付した柿の葉の茶を販売したこと、

(三) 昭和四三年七月一日主婦の友社発行の雑誌「主婦の友」七月号中の記事において、肝臓病を克服した人物が愛用していた柿茶(柿の葉の茶)として原告の製造販売している柿茶が紹介されたことから、原告が主婦の友社通信販売部から引き合いを受け、これを機に原告は、同社の通信販売を通じて「柿茶」の表示を付した柿の葉の茶の全国的な販売を開始し、月刊誌「主婦の友」に昭和四三年八月号以来、また同社発行の雑誌「わたしの健康」にも昭和五一年一〇月の同誌創刊以来、それぞれ通信販売広告欄で原告の「柿茶」を広告宣伝し、主婦の友社通信販売部を通じて原告の商品である「柿茶」の販売を行ってきたこと、

(四) また原告は株式会社講談社発行の月刊誌「壮快」に、同誌昭和五〇年六月号から今日まで、「柿茶」等自社製品の広告を掲載していること、

が認められる。

2 右のような個人営業の生化学研究所及び原告による宣伝、広告、そして商品の販売の事実が認められるが、その宣伝、広告、販売は、昭和四二年頃までは主として西式健康法に関心を持つ需要者、取引者を対象とした限られたものであったと認められ、昭和四三年以降は雑誌「主婦の友」の読者である主婦、既婚婦人をも対象としたものであるが、通信販売欄における広告は、多数の商品が示されている中の一つに過ぎず、格別目立つものではなく、昭和五〇年頃からは雑誌「壮快」、雑誌「わたしの健康」の読者である健康の維持、増進に関心を持つ一般人をも対象とするようになり今日に至ったものであり、他方前記第一の二2に認定判断したように「柿茶」の文字は、柿の葉、実等に加工して作った飲物の原料、又はその原料に湯を注ぐ、煮出す等して成分を浸出させた飲物の普通名称あるいはそのような商品の原料、種類を直截に説明的に記述する表示であり、書籍、講演などにおいて、普通に柿の葉の茶を指す言葉として使用されてきたものであって、その実例も少なからず認められること等に照らすと、「柿茶」の表示に接した一般的な需要者においては、柿の葉の茶一般を指すものと受け止めるものと認められ、右1認定の原告による宣伝、販売活動によっても、「柿茶」の表示が原告の商品の出所を表示するものとして、一般的な需要者、取引者において周知のものとなっているとは認められない。

前記甲第一〇号証ないし甲第一二号証の各1、乙第六五号証の2の一ないし一三、原本の存在については当事者間に争いがなく弁論の全趣旨により成立を認める甲第五号証ないし甲第七号証、甲第一三号証中の右認定に反する部分は、いずれも採用することができない。

二  以上によれば、被告による被告標章の使用が不正競争防止法二条一項一号の不正競争行為に該当することを根拠とする原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第三  不正競争防止法二条一項一〇号の不正競争行為に該当することに基づく原告の請求について

一 被告標章が、「京の柿茶」もしくは「KYO NO KAKICHA」の文字からなるものであること、被告商品は京都で製造、加工されたものではなく、京都で産出された材料を含んでいないことは当事者間に争いがない。

被告標章を付した被告商品に接した一般需要者は、被告標章のうちの「京の」、「KYO NO」の部分は、被告商品の製造地あるいはその原材料の生産地が京都市及びその周辺あるいは京都府であることを表示するものと理解する者が多いと認められるところ、被告商品は、京都で製造、加工されたものでなく、またその原料も京都で産出されたものではないから、被告標章を被告商品やその宣伝広告に使用する行為は、商品及びその広告にその商品の原産地、品質に誤認させるような表示をするものとして、不正競争防止法二条一項一〇号の不正競争行為に該当すると認められる。そして、右のように不正競争行為に該当すると認められる以上、特段の事情がない限り、被告の不正競争行為により、同業者として柿の葉の茶を製造販売する原告は、その営業上の利益を侵害されるおそれがあるものと認められる。

二 被告は、被告が「京の」という表示に託したものは、古都であり、我が国の伝統文化を地域的に代表するとともに、日本人の柿を愛する営みを貴族社会の中で発祥させた地の一つである「京」のイメージをかりて、被告がこの商品に込めた古雅(みやび)ないし優雅さ(エレガンス)のイメージを需要者に伝えようとしたものであって、被告標章を被告商品に使用することは、不正競争防止法二条一項一〇号に該当するものではない旨主張する。

しかしながら、被告標章の表示から、被告が主張するようなイメージで被告商品をとらえる需要者もいるかもしれないが、反面、柿の葉の茶と古雅なないし優雅なというイメージが調和しないことからすると、むしろ、「京の」、「NYO NO」の語を文字どおり素直に被告商品が、京都で製造、加工されたとか、京都で採取された柿の葉を原材料として製造されたものであると誤認する需要者も決して少なくないと認められるから、被告の右主張は採用できない。

また被告は、京都は、柿の葉の茶の名産地ではないし、柿の葉の茶の名産地なるものは国内に存在しないことからすれば、柿の葉の茶に京都を原産地として表示することには、商品の販売上格別の意味も実益もないから、その反面として、原告に営業上の損害が生ずるおそれはない旨主張する。

しかしながら、被告商品の製造地あるいは原材料の生産地が京都市及びその周辺あるいは京都府である旨需要者に受け取られる被告標章を使用することによって、同地で伝統的な製造法によって製造されたもの、同地で古来の栽培法で栽培収穫された原材料を使用したものとのイメージを与えられ、しかも、京都府の宇治市とその周辺が茶の名産地として有名であることは当裁判所に顕著であり、茶と類似の飲物として認識される柿の葉の茶に、「京の柿茶」あるいは「NYO NO KAKICHA」の表示を使用すれば、事実に反する表示を使用することにより商品に虚構の印象を付与し、これにより競争者との販売競争上、優位に立つもので、そのことによって被告標章を使用しない競争者の営業上の利益を害するおそれがあるというべきであるから、被告の右主張は採用できない。

三  被告は、原告の請求は権利の濫用である旨主張する。

前記甲第一二号証の1、甲第四二号証ないし甲第五八号証、成立に争いのない甲第八号証、甲第六〇号証によれば、原告は昭和五三年頃から、雑誌に掲載する広告中に「柿茶」は登録商標である旨を記載するようになり、また昭和五二年頃以降「柿茶」の語を書籍等の中で普通名称として使用した者に対し、「柿茶」は登録商標である旨注意、警告する内容の文書を送付していることが認められる。しかし、原告が「柿茶」の文字のみからなる商標権を有していることを認めるに足りる証拠はなく、原告が商標権を有する本件第一商標は「柿茶」の文字を含むけれども、他の文字及び図形との結合商標であって、そのような構成のものとして商標法三条二項の適用を受けたものであり、「柿茶」の文字部分は自他識別力を有しないことは前記第一のとおりであり、前記のような広告中の記載や注意、警告は、「柿茶」の文字からなる商標が登録商標であるかのような表現である点で事実に反しているものといわなければならない。

しかしながら、右の事実をもって、原告の不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づく右請求が、原告の権利濫用であることを基礎づけられるとは認められないから、被告の右主張は採用できない。

四  よって、不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づいて、被告標章の使用の差止め及びこれを付した柿の葉の茶の容器、包装、宣伝用カタログの廃棄を求める請求は理由がある。

第四  結論

以上によれば、原告の本訴請求のうち、不正競争防止法二条一項一〇号、三条に基づく請求は正当であるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して(なお主文第1項及び第2項について、仮執行宣言を付するのは相当でない)、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官西田美昭 裁判官髙部眞規子 裁判官櫻林正己)

別紙標章第三〜第七目録〈省略〉

別紙謝罪広告目録〈省略〉

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